定例会・臨時会

予算常任委員会

2021年4月27日

委員長報告

企業事業資金貸付金特別委員会 報告(案)

はじめに

 栗東市が企業事業資金貸付条例に基づき、たばこ小売業者2社に各5億円を貸し付けたが返還がされず、市が債権回収の最終手段として債権者による破産申し立てを行い、その結果が判明してきた。担保金等を差し引いた残債約9億円に対して、配当金としては、法人及び連帯保証人分を合わせて685万9369円で、破産申し立て費用として292万287円を支出している。
 これらのことについては、破産申し立て以降の状況は市当局より報告はあったが、貸付は平成12年からで20年前のことであり、当時の経過などを改めて調査し、どこに問題があり、今後の対応をどうしていくのか、議会として検証する必要があり、特別委員会を設置し、審査したものである。

1 特別委員会の概要

(1) 設置
令和2年9月定例会の最終日(9月29日)に定数8人とする「企業事業資金貸付金特別委員会」を設置した。
委員長 藤田啓仁 副委員長 野々村照美
委員 田村隆光、林好男、上田忠博、片岡勝哉、武村賞、伊吹裕

(2) 調査事項
審議事項としては、「貸付制度及び貸付実施の経緯及び妥当性について」「弁済期日後の対応について」「債権の今後の対応について」である。

2 委員会の開催状況

  令和2年10月29日 第1回特別委員会
            ・㈱TSR債権調査期日の報告
            ・貸付制度及び貸付実施の経緯及び妥当性について
令和2年12月17日 第2回特別委員会
            ・12月3日債権者集会の報告
            ・弁済期日後の対応について
令和3年 1月29日 第3回特別委員会
            ・債権の今後の対応について
            ・今後の委員会の進め方について
令和3年 5月14日 第4回特別委員会
            ・総括について

3 調査結果

 貸付制度及び貸付実施の経緯及び妥当性について、平成10年6月に公共公益施設整備の財源確保のため、栗東町企業誘致特別措置に関する条例(以下、奨励金条例という。)が制定された。
この奨励金条例は、売上金の5%を市から奨励金として交付するもので、これを目当てに複数のたばこ小売業者が本市に進出し、たばこ税も連動して多くなってきた。しかし、当該制度は税の不均衡をまねくということから当時の自治省や滋賀県から強い指導があり、平成11年9月議会において奨励金条例の廃止が議決された。
その後、奨励金条例廃止に伴い㈱ジェイティ―アール(現在の㈱TSR)からの要望に対して協議がなされ、平成12年6月議会において栗東町企業事業資金貸付条例(以下、貸付金条例という。)を制定し、同年9月29日に㈱ジェイティ―アールと金銭消費貸借契約を締結し、3億円を貸し付け、同年12月26日に同社に2億円を貸し付けたものである。
この企業事業資金貸付制度の構築にあたっては貸付先の意向を相当程度ふまえたものとなっていたことが判明した。
平成13年11月に㈱ジェイティ―アールから一部営業譲渡を受け、㈱ジェイティ―アールたばこサービス(現在の㈱CSR)が設立され、平成14年6月20日同社と金銭消費貸借契約により3億円を、平成15年3月31日に2億円を栗東市は貸付を行った。
貸付後の返済については、栗東市と貸付先との間で、その後に奨励金条例の復活をする旨のやりとりがあったと推察されるが、確固たる記録はない。
その証左の一部として、振興資金を交付する貸付金条例の一部改正が平成15年12月議会に提案され、議会の環境建設常任委員会では可否同数で委員長裁決により可決すべきものとなっていたが、平成16年度の税制改正大綱による「市町村たばこ税都道府県交付金」の創設による情勢の変化により、この改正案は平成16年3月撤回された。
担保について貸付金の1割となっていて、これの根拠については当時の契約保証金の割合が契約額の1割となっていたことからであったが、やはり、貸付金に見合う担保を取るべきであった。
納税についても貸付後数年で終了していて、10年間で50億円を納税するとなっていたのだから、返済期限は未到来ではあったが、その段階で市は何らかのアクションを起こすなど一定決断すべきであった。
市が貸し付けた2社合わせて10億円から担保1億円を差し引いて元金約9億円の返還と10年間に50億円納税するという二つの問題をどうするのか、市として市民に説明する必要がある。
貸付金条例による市の税収効果と財政運営については、総合福祉保健センター建設、芸術文化会館建設、環境センター更新、新幹線新駅設置など大型の公共公益施設整備が必要であり、これらの財源確保のために基金への積み立ても行われた。
さらに、たばこ税収確保による一般財源の押し出し効果により、扶助費をはじめとした市民サービスの維持にも寄与した。

弁済期日後の対応については、平成22年9月及び12月に㈱TSRの貸金返済期日が到来し、市は一括弁済を求め協議をするが、過去の経緯を繰り返すのみであったため、貸金返還請求を裁判所に訴え、平成24年3月㈱TSR側は「認諾」をし、市の請求の正当性が確認された。
また、㈱CSRに関しては、平成24年6月及び平成25年3月の返済期日後も返済がなく、その後も複数回返済協議を行い公正証書を作成するも、これに基づく返済も行われなかった。このような状態であったが、訴訟に移らず返済協議を続けていた。
㈱CSRへの貸金が違法として平成25年2月に住民訴訟が提起され、平成28年12月第2審判決が出た段階で顧問弁護士からの助言を受けて、強制執行をする決断をすべきであった。
住民訴訟が最高裁で終結した後も、まだ返済協議をするなど市の行動タイミングが遅かったといえる。
最終的な手段として平成30年11月に債権者(市)による破産申し立てをしたが、時期が遅かったといえる。

また、当該事案に関して公文書の文書管理が適正に行われていない部分が散見され、記録が残っていない部分もあった。文書管理の徹底を図られるべきである。

4 まとめ

貸付制度及び貸付実施の経緯からは、新幹線新駅設置とその周辺整備など大型プロジェクトの実現のための財源確保が必要であり、平成10年6月に奨励金条例が制定された。
この奨励金条例がないと当時の公共施設建設や行政運営が適切に実施できなかったことは間違いのないことであり、奨励金条例が税収確保の面からの果たした役割は小さくはなかった。
制定1年超後の平成11年9月に、奨励金条例を廃止せざるを得なくなり、市の税収は極端に落ち込むことが予想されることになった。市制施行を控え公共施設の財源としてたばこ税はどうしても必要であるため、業者が本市にとどまる策を検討し、貸付金条例を制定した。
この条例に基づき、現在の㈱TSR及び㈱CSRの2社にそれぞれ5億円、合計10億円を貸付した。貸付にあたっては「栗東町工場等誘致審査委員会」で審査はしているが、民間の学識者が欠席しているなど市に有利となっていたことは否めない。
また、担保については貸付金の1割となっていて、連帯保証人の資力を過信するなど、慎重な貸付の判断であったとはいえない。やはり、担保として貸付金に見合う額を設定しておくべきであった。

市の債権回収の対応については、一貫して「貸したものは返してもらう」との姿勢では望んでいるが、市の担当者の異動や法的ノウハウの不足から貸付先からの要求に対して即断することができず、後手の対応となり徒に時間を費している。また、適時に議会に対して十分な事前説明が不足していた点もあった。

市が節目として決断すべきであったタイミングとしては次の時点が考えられる。
・平成24年3月、貸金返還請求事件第6回弁論準備期日において、相手方(貸付先㈱TSR)が「認諾」した時。
・平成27年9月、公正証書に基づく㈱CSRの返済期限が到来した時。
・平成25年2月から始まった住民訴訟の平成28年12月に第2審判決が出た時。
これらの時に適切な財産調査を行い行動を実施しておれば、財産等の流出を若干でも防ぎ、債権保全を少しでもできた可能性もあったと考えられる。

貸付金条例は現在も活用可能な条例であるが、この条例に基づき貸付を行うような企業は現状ではあり得ないし、また、これまでの教訓を踏まえると、貸付を実施すべきではない。当条例の役割は果たしたと言えることから廃止すべきである。

栗東市の責任については、貸付金条例に基づき貸し付けた金額すべてが返還されていないこと、債権回収の最終手段として市から債務者の破産申し立てを実施したが、結果としての配当金は、貸付法人及びその連帯保証人分を合わせて685万9369円であった。なお、破産申して費用として292万287円を市は支出している。
このことは、先に記載のとおり当時の市の判断に迅速性がなく対応が遅かったことも一因であり、この面においては市に結果責任があり、市長自らがそれを示す必要がある。そして、市民への説明は、これらの経過とともに返済されないことを丁寧に行う必要がある。

 また、市議会としては、議決機関として、市の提案した貸付金条例や貸付予算をそれぞれの時に議決してきたことを真摯に認識しなければならない。
 現在においても市では、複数の大型プロジェクトを計画しているが、意思形成過程を明瞭にするとともに、確実な財源を確保し、将来にわたり安定した市民サービスを維持し、事業の推進が図れるように、議会においても更に慎重な審議を行っていかなければならない。

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