ビル・ゲイツのエネルギー政策

 ビル・ゲイツの投資している原発プロジェクト「テラパワー」について、彼がTEDで語っている(日本語字幕つき)。「2050年にCO2の排出量をゼロにする」という目標はユートピア的だが、その達成方法について語っている部分はビジネスマンらしいリアリズムでおもしろい。

 再生可能エネルギーは燃料を必要としない点ではすぐれているが、こういった技術で収集できるエネルギー密度は発電所に比べ著しく低いため、普通の発電所の何千倍もの面積が必要。太陽や風のような不安定な供給源に頼るとすると、それを利用できない間エネルギーを得る別の手段を用意しなければならない。
 エネルギー貯蔵の問題も重要だ。あらゆるタイプのバッテリーを検討したが、いま入手できるバッテリーをすべて集めてもエネルギーを10分間も供給できない。再生可能エネルギーでまかなえるのは、電力の30%が上限。100%まかなうには、今の100倍以上に貯蔵能力を改善できる奇蹟的な技術革新が必要だ。
 発電効率が高くCO2が出ないのは原子力。私の投資しているテラパワーは、ウランの1%のU235を燃焼させる代わりに残りのU238を燃焼させる進行波炉。99%を燃料として使用することで、コスト面で劇的な改善が得られる。燃料の劣化ウランは数百年分あり、ほぼ無尽蔵だ。

 進行波炉の発想は高速増殖炉と似ており、同じような失敗に終わるという批判もある。しかし重要なのは、ゲイツがまず「途上国にとって何が重要か」という問題を設定して安価なエネルギーの供給という目標を決め、その目標を効果的に実現する手段は何かという観点から再生可能エネルギーや蓄電池などのオプションを検討した上で、原子炉という答を出したことだ。原子炉は暫定的な答であり、他の技術も並行して検討すべきだとも強調している。

 これに対して「自然エネルギー」という個別インフラから入る孫正義氏の財団は、目標と手段の順序が逆だ。再生可能エネルギーの普及という手段を目標にすると、高コストの太陽光パネルには補助金を出そうという民主党のナンセンスな政策になる。孫氏の情熱と行動力は立派なものだが、ゲイツのような戦略を立てて費用対効果を計算しないと、せっかくの浄財が無駄な太陽電池や風車に浪費されかねない。

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